2007年02月06日

●水の精の4つのアーキタイプ(EJ第1288号)

 水の精は人間に対していろいろワルサをするのですが、その原
型は次の4つになる――青柳いづみこはそういっているのです。
4つのタイプを再現します。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
   1.網をはり待つタイプ ・・・ メリザンド
   2.引きずり込むタイプ ・・・ セイレーン
   3.出かけて行くタイプ ・・・ オンディーヌ
   4.何もやらないタイプ ・・・ メドゥ−サ
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 「網をはり待つタイプ」の典型は、定められたある約束の時に
選び出された若者が来ることを網をはって待つタイプで、メリザ
ンドはこのタイプです。深い森の泉のほとりで若者がくるのを網
をはって待つのです。「眠れる森の美女」のお姫様も妖精と考え
ると、このタイプに当たります。
 「引きずり込むタイプ」の典型は、あの人魚ローレライです。
ライン河の岩の上で金髪をくしけずりながら、美しい歌声によっ
て船乗りを惑わせ、海底へと引きずり込む恐ろしい妖精――セイ
レーンという人魚なのです。
 ローレライというと、「なじかは知らねど、心わびて」という
あの有名な歌が反射的に出てきますが、これはハイネの詩にジル
ヒャー(1789〜1860)という作曲家が1838年に作曲
したものなのです。しかし、あのフランツ・リストもこの同じハ
イネの詩に作曲して歌曲を書いています。のちにリストはこれを
オーケストラ伴奏付きに改訂し、さらにその翌年にそれをピアノ
独奏曲に編曲しています。
 しかし、このことを知る人はあまりいないのです。それに「ロ
ーレライ」は民謡といわれていますが、それはこの詩を書いたハ
イネがユダヤ人であったため、ナチス政権下では民謡として扱わ
れたからです。青柳いづみこは、CD「水の音楽」の中でこのリ
ストのピアノ独奏曲「ローレライ」を弾いています。
 水の精の第3のタイプ「出かけて行くタイプ」の典型は、あの
オンディーヌです。そもそもこのオンディーヌ――ピアノの作品
としては、あまりにも有名な次の2曲があります。もちろん、青
柳いずみこは、CD「水の音楽」で両方を弾いています。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
   モーリス・ラヴェル作曲
   『夜のガスパール』第1曲 水の精オンディーヌ
   クロード・ドビュッシー作曲
   『プレリュード』第2集/第8曲 オンディーヌ
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 このうち、ラヴェルの『夜のガスパール』は、19世紀のフラ
ンスの詩人アロイジウス・ベルトランの同名の散文詩なのです。
この『夜のガスパール』には、次の3つの詩が含まれますが、こ
の詩はベルトランの唯一の代表作であると同時に、文学史におい
ては、散文詩という新しいジャンルを確立したエポック・メーキ
ングな詩集として位置づけられています。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
       1.水の精オンディーヌ
       2.絞首台
       3.スカルボ
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 実はベルトランの『夜のガスパール』が世に出るのには興味深
い話があるのです。この詩集はベルトランの生前には話題にもな
らず埋もれていたのです。その埋もれていた詩を発掘したのは、
大詩人ボードレールでした。ボードレールが注目したのは散文詩
という新しい表現スタイルで、これに啓発されたボードレールは
小散文詩『パリの憂鬱』を書き上げて、その序文でベルトランを
絶賛したのです。これでベルトランの名が世に出るのです。
 さらに『夜のガスパール』をさらに有名にしたのは、かねてか
らボードレールの詩を愛読していたモーリス・ラヴェルで、これ
をピアノ曲として世に送り出したというわけです。ベルトランは
彼の死後、こういういきさつで認められたのです。
 さて、オンディーヌは「出かけて行く女」ですが、その目的は
人間の男を婿にむかえて水底の国に連れていくことなのです。オ
ンディーヌは、ささやく声で歌いながら、指輪を受け取って欲し
いと男に哀願します。しかし、男に自分は人間の女の方がよいと
拒否されると、オンディーヌは、幾しずくかの涙を流したかと思
うと、突如甲高い笑い声をあげ、窓ガラスに白々と流れる水滴に
なって消えてしまうのです。
 水の精オンディーヌの一節をご紹介しましょう。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 ――≪聞いて下さい!――聞いてください!――私です、オン
 ディーヌです。淡い月光に照らされた響くような菱形の窓に、
 雫となって軽く触れているのは、波の衣装を纏って、星のまた
 たく美しい夜と、眠りについている美しい湖を露台から見つめ
 ているお姫さまです≫。   ―――水の精オンデイーヌより
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 水の精の第4のタイプ「何もやらないタイプ」とは、どういう
行動をするのでしょうか。これは、自分からは何ひとつ行動を起
こすわけではないのですが、存在そのものが悪になるというタイ
プです。その典型は、ゴルゴーン3姉妹のメドゥーサです。
 ゴルゴーン3姉妹は、ステノ、エウリュアレ、メドゥーサの3
姉妹で、髪の毛はからみ合う蛇で、猪のような牙があり、手は青
銅でできており、黄金の翼を持っている――その中でとくに容貌
が恐ろしいのはメドゥーサで、これをひと目見た者は一瞬のうち
に石に変えられてしまうのです。
 妖精について、本を調べてみたのですが、いろいろな本が出て
います。『水の精の系譜』などというぴったりの本もありました
が、こういう本は価格が高くて閉口しました。世の中、いろいろ
なことを調べている人がいるものですね。
                −− [青柳いづみこ/04]

???[?????C??????????C????.jpg
posted by ここから at 17:39| Comment(0) | TrackBack(0) | 青柳いづみこ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする