2007年02月01日

●青柳いづみこをご存知ですか(EJ第1285号)

 青柳いづみこ――こういう名前のピアニストをご存知でしょう
か。このピアニストは少し変わっていて、随筆や小説――それも
ミステリーを執筆し、それにあわせてCDも同時出版するという
日本では今までにないタイプのピアニストなのです。
 といっても、有名なピアニストがエッセイ集を出すということ
は昨今そう珍しいことではないと思います。著名なピアニストが
本を出せば、名前が通っているだけにそれなりに売れる――そう
いう思惑が出版社にあるからです。
 しかし、青柳いづみこの場合、それとはかなり違うのです。文
章を操れる演奏家というレベルをはるかに超えており、明らかに
文才がある――そういって差し支えないと思うのです。
 青柳いづみこの執筆したミステリー・エッセイに『ショパンに
飽きたら、ミステリー』(創元ライブラリー)というのがありま
す。ピアニストのエッセイが創元ライブラリーから出るというだ
けでも凄いことだと思います。そのほんの一節をご紹介します。
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  「探偵小説というのは、人を殺したりして、なかなか面白い
 ものである」とおっしゃったのは、たしか、どくとる・マンボ
 ウこと、北杜夫先生である。私も、この意見に賛成だ。
  いったいなにが究極といって、人があっさり何人も殺されて
 しまう探偵小説ほどの究極も、そうあるまい。これが普通の小
 説なら、人なんか一人でも殺すまでには、主人公の心理葛藤か
 ら複雑な人間関係から、なにからなにまで描写しなくてはなら
 ず、本当に殺せる前に小説が終わってしまいそうだ。なにしろ
 ドストエフスキーの『罪と罰』だって、たった一人老婆を殺し
 たからって、大さわぎなのだから・・・。
  探偵小説のいいところは、人が殺されるというような、普通
 の小説ではなかなか設定しにくい異常な状況が、はじめから読
 者によって容認されていることである」。(青柳いづみこ著、
 『ショパンに飽きたら、ミステリー』――創元ライブラリー
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 どうでしょう。見事なものです。面白いし結構読ませる――こ
れだけの文章は、なかなか書けるものではないです。青柳いづみ
こをこのように紹介すると、それじゃ肝心の音楽――ピアノの方
はどうなの?ということになると思います。
 実はこのピアニスト――今年でデビュー24年目を迎えるベテ
ランなのです。実は私、彼女の実演を聴いたことはないのですが
CDは全部持っています。といっても、全部で4枚ではあります
が・・。しかし、本は8冊出版していますので、ピアニストとい
うよりも、「ピアノが弾ける作家」というべきかも知れません。
 驚くべきことは、その4枚のCDが、ことごとく『レコード芸
術』の特選盤になっていることです。といっても、これはレコ芸
のことを良く知らない人にとってはきっと「驚くべきこと」には
ならないと思うので説明しますが、日本人で自分の出したCDを
レコ芸の特選盤にするということは、どうしてなかなかできるこ
とではないのです。
 とにかくこの『レコード芸術』という雑誌の「新譜月評」は、
私はおよそ50年間にわたって読んでいるのですが、日本人の演
奏家に関しては、ほとんどイジワルと思えるほど、非常に厳しい
評価をするので有名なのです。最初のCDで「準推薦」ならバン
ザイものなのです。それが全部特選盤――とても考えられないこ
となのです。
 どちらかというと、ドビュッシーもラヴェルもあまり好きでな
い私が青柳のCDを購入したのは、出すCDがすべて特選盤とい
う驚くべき実績によるものなのです。聴いた結果は、あまり好き
でなかったドビュッシーとラヴェルが好きになるほどの演奏とい
えばわかっていただけると思います。特選盤だけのことはある見
事な奥の深い演奏なのです。
 ところで、彼女は、東京芸術大学在学中にドビュッシーの研究
を行い、大学院で修士論文をまとめ上げているさいに文筆への意
欲に目覚めたというのです。そして、博士課程が設立されたばか
りの芸大に入り直し、奨学金を得てフランスに留学して研究を重
ね、1989年に「ドビュッシーと世紀末の美学」によってフラ
ンス音楽の分野では、はじめての学術博士号を取得しているので
す。のちにこの論文は、一般人がわかるように書き直され、次の
本となって出版されております。
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 青柳いづみこ著
 『ドビュッシー/想念のエクトプラズム』
                 東京書籍出版株式会社刊
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 読んだわけではないのですが、解説によるとこの本には次のよ
うなことが書かれているそうです。
 ドビュッシーといえば、印象派の音楽家であるというのが常識
化されています。青柳は、従来のこのドビュッシー観に疑問を投
げかけています。ドビュッシーの音楽には、世紀末退廃芸術(デ
カダンス)とのかかわりが色濃く反映されている――という新説
を立て、よどみのないリズミカルな語り口で、一般の読者にもわ
かりやすくそれを立証しているのです。
 ところで、私がなぜ青柳いづみこをEJのテーマとして取り上
げたかですが、作家ピアニストといわれる青柳が、2001年に
水に関わる作品をピックアップしたCD『水の音楽』と、同名の
本を同時に出版し、私がそのCDを聴き、その本を読んでいたく
感銘を受けたからなのです。
 絵画と音楽や映像と音楽という2つの媒体によるコラボレーシ
ョンは今までにいくつもありましたが、演奏と文章による「水の
音楽」の表現は今までにない新しい試みであり、高く評価される
べきであると感じたからです。
 百人一首の世界をひとまず離れて、青柳いづみこという作家ピ
アニストの音楽論――明日からはじめます。
                −− [青柳いづみこ/01]

青柳いづみこ/水の音楽.jpg
posted by ここから at 03:52| Comment(1) | TrackBack(0) | 青柳いづみこ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
なかなか鋭い、しかも素晴らしい文章です。私は青柳いずみこさんの音楽も聞いていないし本も読んでいませんがこれからファンになって、気を付けてみます。ところで彼女はモーツアルトを弾きますか?ジャズは演奏しますか?美人ですか?
演奏家も美人が得な世界ですから私が知らないと言う事はぶすのカテゴリイの人なんだろうか。

Posted by 爲積啓史 at 2007年02月02日 13:03
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