2007年02月02日

●オンディーヌは水の精霊である(EJ第1286号)

 青柳いづみこの本『水の音楽』には、「オンディーヌとメリザ
ンド」という副題がついています。この副題によってもわかるよ
うに、彼女はこの本で、水に加えて水に関わる2人の女性/オン
ディーヌとメリザンド――これらの女性はいずれも水の精である
――に焦点を当てて、女性の作家ピアニストならではの独創的ア
プローチによって『水の音楽』を分析しているのです。
 そもそもこの本は、フランスの地方の国立音楽院のピアノ科に
留学した青柳いづみこと指導教官との対話からはじまるのです。
ちなみに、フランスの地方の国立音楽院のピアノ科というところ
は、生徒はみんな12〜15歳の子供ばかりだそうです。
 そこに日本の音大の大学院を卒業した学生が留学するのですか
ら、ちょうど中学校に大人が中途入学するようなものです。そう
いう状況で、ある日のクラス・レッスンで青柳は、先生からモー
リス・ラヴェルのピアノのための組曲『夜のガスパール』の第1
曲「オンディーヌ」を弾くように指示されるのです。
 ところが、弾き終わったとたん先生に「もっと濃艶に弾くよう
に」と注意されたというのです。しかし、このひねた学生は、先
生のこの指導に対して、次のようにイチャモンをつけたのです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 されど我が師よ、我オンディーヌなるもの、かのメリザンドの
 如しとみるも如何に?
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 もちろん青柳本人は、こんな芝居がかったいい方をしたわけで
はないのですが、フランス語は日本語よりも少し感じが固くなる
ので、先生にはこんな感じで聞こえたはずだと青柳は解説してい
るのです。なかなか面白い人です。
 要するに、「私のイメージするオンディーヌは、ドビュッシー
のオペラ『ペレアスとメリザンド』のヒロイン、メリザンドだと
思いますが、先生はどうお考えですか」――このように、青柳は
先生にイチャモンをつけたわけです。
 いかにもフランス人らしいと思うのは先生の対応です。いきな
り留学生から「オンディーヌはメリザンドである」と反撃されて
困惑しながらも、青柳の反論をしきりと面白がって、考え込んで
しまったというのですから・・。
 ところで、「オンディーヌはメリザンドである」――といわれ
ても当惑される方が多いと思いますので、しばらく「オンディー
ヌ」と「メリザンド」についてご説明することにします。
 「オンディーヌ」といえば、ジャン・ジロドゥが1939年に
発表した戯曲として知られています。劇団「四季」などでもよく
上演されています。このように「オンディーヌ」は、ジロドゥの
戯曲によってあまねく知られているのですが、その原作は、ラ・
モット・フケ−で、1811年に彼が書いたメルヘン小説『ウン
ディーネ』なのです。
 「ウンディーネ」とは何でしょうか。
 青柳いづみこによると、フケーが『ウンディーネ』を発表した
翌年の1812年、この話の出処を聞かれたフケーは、16世紀
の錬金術師パラケルススの『水の精、風の精、土の精、火の精そ
の他の精霊の書』(ズートホフ版全集、第14巻)という論文で
あるといったというのです。
 錬金術師パラケルススによると、この世の中は、4つの元素に
よって構成されていて、それぞれに次の妖精が宿るといっている
のです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
  水の精 ・・・・・ ウンディーネ(UNDINE)
  風の精 ・・・・・ シルフ(SHYLPH)
  土の精 ・・・・・ ノーム(GNOME)
  火の精 ・・・・・ サラマンダー(SALAMANDER)
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 これでわかるように、ウンディーネというのは水の精霊のこと
なのです。フケーが小説の中で美しい人間の女性の姿をしたウン
ディーネを登場させて以来、ウンディーネといえば女性の姿をし
た妖精のことであると伝えられてきているのです。
 フケーは、小説の中でウンディーネを、気まぐれで、勝手で、
恐れを知らない、いかにも妖精らしい妖精として描いています。
そのため、ジロドゥも彼の戯曲「オンディーヌ」で、この影響を
受けてオンディーヌを描いているのです。かつて、女優の加賀ま
りこがオンディーヌ役をやって成功していますが、まさにぴった
りのキャスティングといえると思います。なお、戯曲「オンディ
ーヌ」では、「魚を食べない女」として描かれています。
 一般に妖精は魂を持たないといわれています。ウンディーネに
も魂はなく、人間と結婚することによってそれを得ることができ
るのです。しかし、魂を得たウンディーネは、人間と同じように
心配や悲しみを感じるようになり、それだけ不幸になるのです。
 また、人間の男と結婚した場合、そこに破ることのできない契
約が生まれるのです。その契約とは次の内容を持っています。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
  1.夫は、水辺でオンディーヌの悪口をいわないこと
  2.夫は、他の女と浮気をすることは厳禁であること
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 この契約が破られると、オンディーヌは水の世界に戻らなけれ
ばならないし、夫も死ぬことになるのです。そして、その契約が
守られているかどうかを四六時中ウンディーネの仲間の妖精たち
が見張っているというのですから、ウンディーネの夫になるのは
相当の覚悟がないとなれないのです。
 このフケーのウンディーネは、いろいろな音楽家によって取り
上げられています。ラヴェルのピアノのための組曲「夜のガスパ
ール」の「オンディーヌ」、ドビュッシーのピアノのための前奏
曲「オンディーヌ」、日本人では、三善晃による音楽詩劇「オン
ディーヌ」、それから、ドイツのウェルナー・ヘンツェのバレエ
音楽「ウンディーネ」など――たくさんあるのです。
                −− [青柳いづみこ/02]

オンディーヌ.jpg
posted by ここから at 04:48| Comment(0) | TrackBack(1) | 青柳いづみこ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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