2007年02月22日

●クライバーグラムというものがある(EJ第1471号)

 カルロス・クライバーは、豊かな音楽的感性を持っていた人で
あったので、自分の芸術上の考え方が合わないと、公演をドタキ
ャンしたり、人間関係でトラブルを起こしたりしたのです。
 EJ第1466号で、カラヤンはクライバーを一度もベルリン
・フィルに招いていないと書きましたが、これは事実です。しか
し、ベルリン・フィルとしては、3回にわたりクライバーに出演
を要請し、クライバーは2回にわたりベルリン・フィルを振って
います。
 最初のオファーは今から20年ほど前の話なのですが、公演直
前になって突然ドタキャンされたのです。ドタキャンの理由は、
クライバーが郵送した「書き込み入りの楽譜」をベルリン・フィ
ル側が楽員に配布していなかったということだったのです。
 演奏曲目は、ベートーヴェンの交響曲第7番なのですが、クラ
イバーは総譜に演奏上の指示を書き込んでおり、その譜を最初の
リハーサルの一週間前にベルリン・フィル側に郵送しておいたの
です。しかし、最初のリハーサルの2日前にクライバーはベルリ
ン・フィルに電話を入れて、楽譜は楽員に配ってあるかどうか問
い合わせをしたのです。
 しかし、ベルリン・フィル側は、その楽譜を配っていなかった
のです。そのようなことをする指揮者はクライバー以外にはいな
いので忘れていたか、一週間前では作業が間に合わなかったのか
も知れません。「まだ整理できていない」――この返事を聞いた
とたんクライバーは「それなら、私は行きません」といったとい
うのです。
 些細なことといえばそれまでですが、クライバーにとってこれ
はとんでもないことなのです。彼は自分の芸術的条件を満たす状
況が整わないと、絶対に指揮をしないのです。それ以来、クライ
バーとベルリン・フィルとの関係は冷却してしまったのです。ベ
ルリン・フィル側は謝罪するとともに、その後何回も出演を要請
したのですが、いずれも拒否されています。しかし、それから、
10年ほど経過して、ドイツ連邦共和国ヴァイツゼッカー大統領
催のコンサートではその招待に応えて2回指揮をしています。
 クライバーがベルリン・フィルを振ったのは、あとにも先にも
この2回だけです。それは、ドタキャン事件の後遺症というより
も、心から尊敬し、畏怖していたカラヤンのレベルに自分はまだ
達していないのではないかということを非常に気にしていたこと
もあって、演奏を逡巡したということもあったといえるのです。
 1989年にカラヤンが亡くなったとき、その後任について協
議があったのですが、実はベルリン・フィルは全員一致でクライ
バーに声をかけたのです。多分引き受けてはくれないだろうとは
思ったそうですが、とにかく第一候補はクライバーだったという
のです。しかし、彼は引き受けなかったのです。
 ところで、ドタキャンの原因となったクライバーの書き込み譜
のことですが、これは「クライバーグラム」といって大変有名な
のです。クライバーは70年代においてこのクライバーグラムを
必ず使っていたのです。
 添付ファイルにクライバー直筆のクライバーグラムを付けてい
ます。これは、1976年10月24日に上演された楽劇『ばら
の騎士』の練習において楽員に配布されたものですが、次のよう
に書いてあります。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 第1幕、練習番号217から218にかけて。オーケスラの高
 い声部の旋律に合わせてフレージングすること。(221から
 222にかけても同じ)
 第2幕、練習番号19の1小節前。全員「ff」でお願いする。
 (楽譜の指定はf)
           心からの感謝を込めて/C.クライバー
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 マゼールという大指揮者がいます。彼は頭の中に楽譜がコンピ
ュータのように詰まっていて、1音間違えてもすぐわかるという
指揮者です。しかし、クライバーは少しぐらい間違えても、自分
の音楽のイメージに合致していれば何もいわないのです。
 クライバーはその音楽のイメージをいろいろな表現で楽員に伝
えています。たとえば、ベートーヴェンの交響曲第7番の演奏に
ついて、クライバーは次のように楽員に説明しています。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
  この曲を演奏するやり方は100以上あるでしょう。しかし
 実際には2つの選択肢しかありません。1つは、びっくり箱を
 開けた途端にあなたに向って音が次々と襲ってくる状況です。
 もうひとつは、波がぶつかるような音の連続です。
                 ――カルロス・クライバー
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 クライバーグラム――実はこれは父エーリッヒ・クライバーの
影響なのです。エーリッヒはカルロスに正規の音楽教育を受けさ
せていませんが、オーケストラのステージ・マナーについてはよ
くカルロスに話していたそうです。
 コンサートが終了し、指揮者が拍手で舞台に迎えられると、指
揮者は演奏が素晴らしかった楽員を一人ひとり立たせて褒めるこ
とがあります。エーリッヒはそれに反対なのです。彼は立たせる
のであれば、全員を立たせるべきであり、特定の奏者を立たせて
はならない――あんなのは、ドック・ショーだとよくいっていた
そうです。
 そのことの是非はともかくクライバーはこれを絶対にしていな
いそうです。それから傑作なのは「指揮者はメガネをかけるな」
という教えです。
 クライバーは目は悪いのですが、コンタクトレンズをつけてい
たのです。メガネをつけていると何かの拍子に手が当って飛んで
しまう可能性があるからです。クライバーは冗談にメガネをつけ
ない理由を「メガネをつけるとサバリッシュに似てしまうから」
といっていたそうです。      −− [クライバー/06]

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posted by ここから at 04:22| Comment(0) | TrackBack(0) | クライバー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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